岩谷歯科医院。建物の前にある案内板は、この建物のものではなく、こみせのある伝建保存地区を紹介するものです。
日本各地の近代建築探訪など
岩谷歯科医院。建物の前にある案内板は、この建物のものではなく、こみせのある伝建保存地区を紹介するものです。
今月より始まった、朝日新聞朝刊の連載記事「まちは生きていく」が面白いです。書いているのは、京大建築学科出身の編集委員、松葉一清さん。
全国各地の、まちおこしや地域活性化のために尽力された闘士・志士の方々の紹介です。エピソードを交えた写真入りの記事で、さまざまな興味深い実践例が示されています。
asahi.comに掲載されていないか探したのですが、どうも載せていないようです。後日、単行本にでもなるのでしょうか。
これまでに取り上げられた町は、
・高松市丸亀町
・山口県宇部市
・徳島市新町川
・京都市三条通り
・熊本県山鹿市
・新潟県村上市
・埼玉県川越市
・岐阜県飛騨市
・茨城県古河市
・長崎県島原市
・山口県下関市
今日の下関の記事は、下関市役所第一別館の保存の話でした。第一別館の写真が誇らしいです。
これまでの連載で「あッ!」と思ったのは、村上市のまちづくりの回。「会津若松の街並み保存運動家に『道路拡幅で成功した商店街はどこにもない』とさとされた」という話でした。そうなのですよね。道路の拡幅工事を行なった町は、どこもよそよそしい新興・復興の町のようになってしまうのです。さまざまな建物がゴチャゴチャしている町こそが、魅力的な独自性のある町なのに。
川越の回で、お上に頼らないまちおこしの話も、共感しました。「好きなことなので自腹が原則」、「政治に手をだすな、お上に頼らない気概を持て、と教えられて育った」という、代表の方のお話。「気概」を持たなければなりませんネ。
以降、どの町の話が出てくるか、楽しみです。
スミトモ。隣のビルに隠されてしまっていますが、塔屋のある建物です。
三上病院。ベランダ部分が妙に古い感じです。思うに、以前は、ベランダ・コロニアル様式の医院だったのではないでしょうか。その部材を使って、新しい建物を建てたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
旧長崎刑務所が今どうなっているのか、その後の情報が出てこない!! まだ、手がかけられていないことを祈っています。長崎新聞さん、旧長崎刑務所は今、どうなっていますか?
旧長崎刑務所は、すでに民間の不動産会社に売却されてしまっているということですので、あとはその業者さんの意向次第ということかも知れませんが、まだ諦めてはいけません。
旧長崎刑務所を購入したのは、東京の不動産会社だという話も聞こえてきます。ぜひ業者さんには、諫早のこの現地を見てほしいと思います。遠く離れた土地での机上の計画だけではなく、実際の現地を見、歩き、感じてほしい。そうすれば、きっとこの旧長崎刑務所の価値や意義を実感するに違いありません。そうすれば、この建物や空間を活かした計画をせざるを得なくなるはずです。業者さんには、この旧長崎刑務所という素材に対して、どのような活かし方をするかの手腕が問われることでしょう。
不動産を所有するということは、自身の財産として何でも自由にできる、ということでは決してありません。さまざまな法規制もありますが、それをクリアさえすれば良いというだけでもありません。
不動産を所有するということは、時間軸と空間軸という両座標軸上での責任を負うということを理解しなければなりません。時間軸とは、過去から未来へという、歴史的価値を伝えること。空間軸とは、近隣や地域の中でのその物件の意味、さらに、もっと広く地球規模の空間の中での意味までをも考えなければなりません。これは、この旧長崎刑務所のような歴史的建造物だけでなく、どんな小さな住宅でも、マンションでも同じです。不動産を所有するということは、そういった重い責任を負うことなのだということを、誰もが理解し、意識する必要があります。
旧長崎刑務所は、重要文化財級の非常に価値の高い建物ですが、たとえ文化財に指定されていなくても、価値があるということに揺らぎはありません。ものの価値はレッテルではなく、そのもの自体に価値があるのです。
なお、旧長崎刑務所のことを載せているブログの多くには、価値は認めるが、ここまで老朽化してしまっては解体も止むを得ないという記述が少なくありません。しかしながら、たとえどれほど老朽化しても、解体の理由にはなり得ないのです。全国の残る文化財指定の近代建築の多くは、どれも老朽化し、一時は廃墟のようになっていたのです。人々がその価値を見出し、保存をするという意志さえあれば、保存できるのです。要は、その物件の価値を見出すかどうかに掛かっています。
また、旧長崎刑務所を保存するには数十億円もかかるのでは、解体も止むを得ないという記述も見られます。不思議と、なぜか他の建物でも解体する理由として、保存するには数億、数十億円かかるという金額が示されます。こんなにかかるのでは止むを得ない、という口実を与えるための金額なのではないかとさえ疑われます。建物全体を一気に修復・保存するとすれば、それなりの金額がかかるでしょうが、予算が無ければ無いなりの修復・保存の方法があるはずなのです。要は、その物件を残したいという意志次第なのです。お金が無いから残せなかったとは、何とも恥ずかしい話ではありませんか。
旧長崎刑務所を取得された東京の不動産屋さん。この旧長崎刑務所が、後世に誇るべき良い形で残されることを期待しています。
上原呉服店。洋品店も兼ねていたのではないかと思われます。
囲碁センター。よく見ると、縦長の上げ下げ窓と、アーチの付いた窓があります。
旧長崎刑務所が、まだ残っていると信じて!!
旧長崎刑務所で検索していたら、「うさたろう日記 はてな版。」に興味深い資料がリンクされていました。平成18年10月10日付の「第55回国有財産九州地方審議会議事録」というもので、この中に、この旧長崎刑務所の民間不動産業者への売却にあたって、一部でも保存できないものかという審議会委員で九州大学名誉教授の樗木武氏の質問に対し、北村管財部長が説明をしています。
「(前略)それから、今、委員のほうから赤レンガ等の旧刑務所庁舎につきましての、文化財としての価値ということでございますが、この建物を文化財として保存するかどうかにつきましては、地元であります長崎県、諫早市が文化財保護法でありますとか、長崎県の文化財保護条例に基づきまして、保存を要するかどうかということを判断されることになっております。本件につきましては、私どもが長崎県、諫早市に確認した結果、いずれも保存することには該当せず、国が売却しても構わないという旨の回答を得た上で、一般競争入札を実施したところでございます。」
北村管財部長の説明では、旧長崎刑務所の保存価値について判断するのは県や市であると言っています。しかし、まずは所有者である国が判断すべきなのではないでしょうか。財務省では価値判断ができないということであれば、文化庁なり、あるいは建築学会なり建築士会なり、価値判断のできるところに聞くのが筋でしょう。この説明では、長崎県、諫早市が、旧長崎刑務所には価値がないと言ったから、保存する必要はないのだと言っています。しかし、本当に県や市は、旧長崎刑務所に価値はないと言ったのか。価値がないと言ったのではなく、保存するお金がないと言ったのではないでしょうか?
国の所有する旧長崎刑務所に対して、県や市が「保存する価値がある」と言うことは、すなわち引き取るということになるのではないか。財政的に厳しい県や市には、そのようなことを言い出すわけにはいかないだろうことは、想像できます。旧長崎刑務所には価値がないと言った当事者は、県や市であるとされていますが、これはすり替えではないか。純粋な価値判断と財政的な判断とは、全く切り離して行わなくては、判断を誤ります。
そもそも、県や市に聞く前に、所有者である国自身が旧長崎刑務所の価値判断をすべきでしょう。北村管財部長の説明では、そのことを、全く無視しています。
長崎県の担当者、諫早市の担当者の方々。旧長崎刑務所に保存の価値なしという誤った判断をしたのは、本当にあなたたちで良いのですか? 所有者としての、国の判断はどうなのですか?
かくして、正当に価値判断をされることなく、国(財務省)によって、旧長崎刑務所は売却され、今や解体寸前となっているのです。国民の、いや人類の、貴重な遺産である旧長崎刑務所が、真っ当な価値判断もされずに売り飛ばされてしまったのです。このことを、ずっと明記しておきたいと思います。
旧医院か? この洋館の特徴は、右側のなだらかな傾斜屋根です。