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旧長崎刑務所の保存要望書が掲載されました

ファイル 1543-1.jpg

先にお知らせいたしました、社団法人日本建築学会九州支部が、株式会社ユニディオコーポレーションおよび株式会社新日本建物宛に出した旧長崎刑務所の保存要望書が、HPに掲載されました。

社団法人日本建築学会
http://news-sv.aij.or.jp/scr/request/teigen.asp
社団法人日本建築学会九州支部
http://wwwsoc.nii.ac.jp/kbaij/hozonyobo/hozonyobo.html

いくら保存要望書を出しても、全ての建物が保存されるわけではなく、逆にあっさりと解体されてしまう建物のほうが多いのが現実です。しかし、何もしないままよりは、建物の所有者がその建物について考える機会となるのではないでしょうか。所有者自身が考えるところからスタートしなければ、保存も何も始まらないのです。たとえ、その建物の所有者が、官であれ民であれ。

小生の感触では、かつては民間所有の建物のほうが壊されてしまう確率が高かったと思うのですが、今は国や地方自治体所有の建物のほうが簡単に壊されてしまう傾向にあるようです。所有者の組織の中に、この建物は壊してはならない、残さねばならない、という志を持つ人物があらわれにくい世の中になっているのでしょうね。悲しいことです。

「お金が無い」という一点だけが、いつも、全ての建物の解体理由となってしまいます。しかし、「お金が無い」ということは、保存に向けての費用が出せないということであって、解体せざるを得ないという理由には、論理的にはならないはずです。「お金が無い」と、「解体せざるを得ない」との間には、何か他の理由がなければ、理屈が通りません。もっと「お金が無い」以外の、何か建設的・積極的な理由で議論をしたいものです。そうすれば、何とか建物を残しながら所有者にとってもメリットのある妙案を探すことができると思うのです。「お金は無い」けれども。

続報の無いまま時間が過ぎて行きますが、旧長崎刑務所解体の進行具合が危惧されます。

旧長崎刑務所の保存要望書を手渡してきました

台風の通り過ぎた9月7日、日本建築学会九州支部よりお預かりした旧長崎刑務所の保存要望書を、現所有者に手渡してきました。

現在、旧長崎刑務所は、東京に本社のある株式会社ユニディオコーポレーションと株式会社新日本建物の2社が所有しています。

ファイル 1512-1.jpg
株式会社ユニディオコーポレーション
http://www.unidio-corp.co.jp/

ファイル 1512-2.jpg
株式会社新日本建物
http://www.kksnt.co.jp/

近々、日本建築学会九州支部のHPに保存要望書の文面が公開されるかと思います。これでようやく、旧長崎刑務所が学術的にも保存すべき物件であると、公的に示されたということになるでしょう。すでに解体が始まっていますが、旧長崎刑務所の価値を所有者の方々にご理解いただき、保存・活用について検討いただければありがたいと思います。

社団法人日本建築学会九州支部
http://wwwsoc.nii.ac.jp/kbaij/

小生、今回初めて保存要望書を手渡す役を引き受けたのですが、過去の事例を調べてみると、保存要望書の受取りを拒否するような例もあるようなので、受け取ってもらえるかどうかを心配しておりました。無事、受け取っていただけましたので、ひとまず大役を果たすことができました。

あとは、どのような反応があるか、です。良い結果を、期待したいと思います。

旧長崎刑務所の活用方法を考える

ファイル 1508-1.jpg

すでに解体も始まった旧長崎刑務所ではありますが、仮に保存が実現したとして、どのような活用方法があるかを、思いつくまま、独断で勝手に書いてみました。採算や費用度外視で、とにかくプランの種類や数を多く出すことが目的です。実現性のないムダなことだなどと考えずに、皆さんの考えもお寄せください。

●ホテルなどの宿泊施設。房舎も、当然改修して宿泊施設として利用する。倉敷アイビースクエアのイメージ。
・倉敷アイビースクエア
http://www.ivysquare.co.jp/

●刑務所博物館。旧長崎監獄を体感する体験型施設。修学旅行生や、団体観光バスによる集客を期待。博物館網走監獄のイメージ。
・博物館網走監獄
http://www.kangoku.jp/

●レストランなどの飲食店。庁舎だけ保存の場合にも有効。事例は多いが、例えば東京の小笠原伯爵邸などのイメージ。
・小笠原伯爵邸
http://www.ogasawaratei.com/html/index.html

●地域の集会所・公民館など公共施設。庁舎だけ保存の場合、公民館を新築する予算を改修・改装費用に充てれば、充分実現可能と思われる。一部は展示コーナーとして、旧長崎刑務所についての展示解説を行なう。

●たてもの園。庁舎を管理棟とし、長崎歴史文化博物館の分館として、長崎県内で解体せざるを得なくなった歴史的な建物を移築保存し野外展示を行なう施設とする。犬山の博物館明治村や、東京の江戸東京たてもの園のイメージ。
・博物館明治村
http://www.meijimura.com/index.html
・江戸東京たてもの園
http://tatemonoen.jp/

●結婚式場。歴史的な建物を結婚式場にする例は多いが、さすがにこれはムリだと思う(笑)。

●温泉施設。庁舎を利用し、スーパー銭湯的な入浴施設にする。イメージが貧弱(泣)。

●ショッピングセンターの管理棟。敷地をショッピングセンターとする場合、庁舎を管理棟として保存・活用する。

●シナリオ図書館。庁舎を利用し、諫早出身の市川森一氏の作品をはじめとする、テレビドラマや映画などのシナリオ(台本)全て収集する図書館とする。

●九州赤煉瓦博物館。九州地区の赤煉瓦建造物の資料展示を行なう。舞鶴の赤れんが博物館のイメージ。
・舞鶴市立赤れんが博物館
http://www.maizuru-bunkajigyoudan.or.jp/akarenga/index.htm

旧長崎刑務所保存をめぐる3つの主張に答える

ファイル 1503-1.jpg

8月31日、諫早で開催された「旧長崎刑務所の保存と活用を考える市民フォーラム」ですが、当夜、出席された長崎総合科学大学の山田由香里さんからお電話をいただき、会議の様子などをうかがいました。また、「旧長崎刑務所の保存と活用を考える会」の栄田元信さんから、メールで状況のご報告をいただきました。長崎県建築士会長崎支部青年部のブログや、長崎新聞、西日本新聞などでも報道されております。

「市民フォーラム」((社)長崎県建築士会 長崎支部青年部のブログ、9月1日付)
http://blog.goo.ne.jp/nagasaki-seinenbu/e/1d23657a658badda0f9bbbfc5be4b48c

「高評価、一方で否定的声も 旧長崎刑務所でフォーラム」(長崎新聞、9月2日付)
http://www.nagasaki-np.co.jp/kiji/20070902/04.shtml

「「署名行動で勢いを」「解体の現実を直視」 旧長崎刑務所の保存策探る 諫早でフォーラム」(西日本新聞、9月2日付)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/local/nagasaki/20070902/20070902_002.shtml

お話をうかがった内容や報道などを見ると、市民の間でかなり意見が割れてしまっているようです。これまでにも、近隣住民の意見は報道されていましたが、旧長崎刑務所を保存するということについての反発は報道以上のものがあるようです。近隣の地主など、直接、利害や利権の絡む問題ですので、これは止むを得ないことでしょう。

また、当ブログへのコメントとして、市民の方々からいくつか書き込みがありました。武田洋子さん、ムーミンさん、山口さん、コメントありがとうございます。それらの意見をまとめると、主張は次の3点になるかと思われます。

まず、財源の問題です。ここでも、保存するには10億円もかかるというステレオタイプの金額が提示されています。今のご時世、お金が無いのは当然ですので、お金が無いならば無いなりの保存の方法があります。また、その負担を市民に負わされるのではたまらないという意見はもっともなことで、旧長崎刑務所のような貴重な文化財級の物件の保存は、国民の財産として国全体で負担すべきでしょう。これは私見ですが、文化財の保存は、将来の子孫に残すということですから、未来への負債でも良いのではないかと考えています。後世、よくぞ残してくれたと喜ばれるか、なぜ解体してしまったと恨まれるか、ということです。

次に、なぜ今ごろ保存を言い出すのかという時期の問題です。これは、現在保存を主張している人々が、反省しなければなりません。小生も、なぜもっと早く保存を訴えなかったのかと思っています。小生の場合、2005年に出た書籍『九州遺産』に掲載されていた写真でこの旧長崎刑務所を知り、2006年の春に初めて現地で旧長崎刑務所を見、なんとか保存できないものかという思いをつのらせておりました。所有者が国であり、何らかの保存措置はするだろうという淡い期待もしておりました。今年の春、報道で民間業者への売却を知るに及び、このままでは解体されてしまうとの危機感から、ようやく行動を開始したのでした。正直なところ、旧長崎刑務所のことを知るのが遅すぎたというのは事実です。もっと早くに、この旧長崎刑務所のことを知っていればと思います。ただ、解体に着手したいまさらでは遅すぎるということは決して無く、どんな時点であれ保存が主張されたということは、まだ可能性を残しているということです。小生のように、多くの人々が旧長崎刑務所のことをまだ知りません。それらの人々に、この旧長崎刑務所の存在を知ってもらい、残すか解体するかの価値判断をしてもらわなければならないと考えています。ごく一部の役人の判断だけで、国民の貴重な財産を喪失してしまっては、後世に取り返しのつかないことになってしまいます。たとえ、多くの市民が解体を望もうとも、保存すべき価値のあるものは、利害関係抜きに判断し、保存措置が図られなければならないと考えます。

最後に、保存を主張するのは市外の人々だけで市民は解体を望んでいるという、これまでも多くの保存運動で見られた地元が解体を望むという構図の問題です。文化財級の貴重な財産である旧長崎刑務所は、近隣住民や行政地域内の市民のものではなく、広く国民のものであるということを理解すれば、この主張はあきらかに誤りであると納得してもらえると思います。さらに、先にも述べたように、貴重な財産である旧長崎刑務所は、現在生きている者だけの財産ではなく、将来の子孫の財産でもあるということを考慮しなければなりません。小生は、これまでにもこの構図を、空間軸と時間軸の問題として、もっと視野を広げて考える必要性を主張してきました。解体してしまうということは、両軸を断ち切ってしまうということなのです。

以上、市民フォーラムを受けての、小生の感想と回答でした。

なお、この市民フォーラム前後にも、旧長崎刑務所のことが盛んに報道されています。多くの人々に、旧長崎刑務所のことを知ってもらうことが、今いちばん大切なことなのだと思います。

「貴重な西欧風れんが造りを発見 旧長崎刑務所解体現場」(長崎新聞、9月1日付)
http://www.nagasaki-np.co.jp/kiji/20070901/01.shtml

「山下啓次郎と旧長崎刑務所展 市立諫早図書館で始まる」(長崎新聞、8月28日付)
http://www.nagasaki-np.co.jp/kiji2/2007082802.shtml

「旧長崎刑務所正門など保存訴え 諫早市に「考える会」要望書…旧長崎刑務所」(読売新聞、9月4日付)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagasaki/news004.htm

近く、社団法人日本建築学会九州支部より、保存要望書の提出が決まったとのことです。旧長崎刑務所が、学術的にも貴重な物件であるということが、裏付けされました。

九州遺産―近現代遺産編101
九州遺産―近現代遺産編101

旧長崎刑務所を残すカギは「用途変更」

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西日本新聞8月26日の用語解説「ワードBOX」に、旧長崎刑務所が取り上げられています。

「視点’07ながさき=旧長崎刑務所、年内解体へ 見えぬ跡地の将来像 諫早市 「保存」「開発」ともに課題」
http://www.nishinippon.co.jp/news/wordbox/display/5104/

これを読むと、旧長崎刑務所は近隣住民のとっては「迷惑施設」でしかないようです。シロアリ被害、ぼや騒ぎ、痴漢出没などなど。しかし、これらの問題は、記事にもある通り、旧長崎刑務所そのものに起因する問題ではなく、旧長崎刑務所を15年間も放置し続けてきたことによる管理上の問題です。

地元が保存に反対するという構図は、全国各地で見られます。以前書きましたが、小樽運河保存の際も、地元は運河埋立賛成でした。妥協・折衷案でしたが、何はともあれ小樽運河が残され、今日の観光化した小樽があります。運河を残すことで、その後どのような展開があるかの想像図を描ききれずに、地元は反対したということなのでしょう。

旧長崎刑務所も、残すことで将来どのような展開がありうるかを、具体的に示す必要がありそうです。昨今、旧長崎刑務所のような歴史的価値のある物件は、観光資源としても有望なのです。

西日本新聞の記事によれば、旧長崎刑務所の今後のカギは「用途変更」のようです。確かに、刑務所の用途地域って、何だったのでしょう。刑務所機能移転後の用途地域の指定も、何だったのか興味があります。県や市は、この「用途変更」の権限で、旧長崎刑務所の保存を取引することができそうですネ。

今後の展開が何も決まっていないにもかかわらず、ただ解体だけが押し進められている現状は、本当に許しがたいです。壊してしまっては、取り返しがつかないのですから。

8月31日の市民フォーラムを期待しています。皆で知恵を出し合って、残した後の旧長崎刑務所の活気ある姿を思い描きましょう。

丘の上の白いパゴダ

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以前から気になっていたのですが、全国を旅していると、丘の上に白いパゴダが建っているのをよく見かけます。どうも、鉄道の大きな駅などから見える位置に建っていることが多いようです。例えば、札幌や釧路、熊本など。

パゴダは仏舎利塔であり、インドのストゥーパが原形です。日本には木造の五重塔や三重塔、多宝塔などの形で伝わりました。パゴダは、ミャンマーやタイなどに伝わった形です。

つまり、現在各地に見られる日本のパゴダは、それほど古いものではないということです。小生の仮説では、伊東忠太設計による大正7年築の名古屋市の日泰寺仏舎利奉安塔が最初ではないかと考えました。その後、昭和初期にいくつか建てられ、昭和30~40年代に各地に建てられたのではないかと考えました。

今回、日本のパゴダのリストを作ろうと思って検索していましたら、すでに「塔婆-現存塔婆と塔婆遺跡」というHPに、「南方式仏塔(パゴダ)」の詳細なリストが載っておりました。

このリストによると、明治44年築の静岡県袋井市の可睡斎護国塔が最初のようで、設計は伊東忠太です。リストでは、大正7年築の日泰寺仏舎利奉安塔は、覚王山仏舎利塔として掲載されています。

伊東忠太が日本に持ち込んだという小生の仮説は、一応正しかったようです。「日本のパゴダの歴史」なんて、どこかの大学で研究しているのでしょうか。建築学というより、仏教系の研究ですかね。

旧長崎刑務所の解体始まる

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諫早の旧長崎刑務所ですが、去る8月18日より、とうとう解体工事が始まったとのことです。長崎放送の解体現場の動画は、見ているのが辛いです。

「“明治の刑務所” 取り壊し」(長崎放送(動画あり))
http://www2.nbc-nagasaki.co.jp/houdou/index.php?itemid=3379

「旧長崎刑務所の解体工事はじまる」(テレビ長崎)
http://www.ktn.co.jp/news/d070818.html#0002

「旧長崎刑務所の解体進む」(長崎文化放送)
http://cgi.ncctv.co.jp/news/news.php?month=M0708&day=19

先にお知らせした、「旧長崎刑務所の保存活用を考える会」主催の8月31日のイベントですが、地元新聞でも取り上げられました。ご都合のつく方は、ぜひお出でください。

「旧長崎刑務所の保存を 市民グループを結成」(長崎新聞)
http://www.nagasaki-np.co.jp/kiji/20070824/05.shtml

旧長崎刑務所解体問題が、なぜ全国紙で取り上げられないのか、不思議でなりません。

建造物の評価と保存活用ガイドライン

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社団法人日本建築学会のHPに、「建造物の評価と保存活用ガイドライン」が載っていました。今年の3月31日に出されたもののようです。素晴らしいガイドラインなのですが、PDFデータのため多くの人の目に触れる機会を逸しています。ここに、テキスト化した全文を掲載したいと思います(英文訳省略)。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

建造物の評価と保存活用ガイドライン

社会の営みのなかで人々が建設してきた建造物には、さまざまな価値が込められている。当初、機能的有用性によって計画された建造物は、やがて長期間使用されつづけるなかで、歴史的価値と文化的価値をもつようになってゆくし、それらの存在はわれわれの生活をとりまく重要な景観要素ともなる。

また建造物は、それを生み出した人々の理想が込められた貴重な社会資産であり、そこにはそれをつくりだすための技術・芸術的叡知が込められている。建造物こそはある時代の到達点を示すかけがえのない証人であり、最大の記憶装置といえるものなのである。こうした建造物を長く使いつづけることは、われわれの文化を継承し、次代へつなげる大切な行為といえよう。

建設活動が地球の環境に与える影響は大きく、多大なエネルギーが注がれている建造物を取り壊すことは、地球環境に大きな影響を及ぼす行為である。建築が短寿命であることは、単に社会資産の形成が遅れるのみならず、地球温暖化の原因である二酸化炭素排出、森林の破壊や大量の建築廃材発生などの、極めて深刻な問題を生んでいる。建造物を保存活用して長寿命化をはかることは、建設廃棄物の減少をもたらし、地球環境問題に対して重要な貢献となる。

建造物の保存活用を積極的に進めることは、われわれの技術・芸術・文化にとっても、地球環境にとっても大切なことといわねばならない。

建造物がもつさまざまな価値を多面的に理解し、それらの価値を将来にわたって高め、保存活用してゆく方途を求めることは、これからの社会に対して日本建築学会が果たすべき責務と考え、そのためのガイドラインをここに提唱する。

2007年3月31日


五つの基本的価値

(1)歴史的価値
建造物は、人類の活動の所産として、広く歴史のなかで価値を持っている。その価値とは、建設年代が古いことによって生じる価値を基本とし、現在までの時間的経過によって加えられたさまざまな価値を含む。そこには、伝統・歴史的様式が継承されており、社会のできごとの痕跡や個人の記憶が留められている。建造物が、巨大な記憶装置となっているところに見出される価値である。

(2)文化・芸術的価値
建造物は、人々の構想力と想像力の所産であり、そこには、社会と人々の生活が表現されている。それこそが、建造物の持つ文化・芸術的価値である。文化的価値とは、建造物に込められた生活や社会の姿に宿るものであり、われわれの社会総体の到達点を示すものである。芸術的価値とは、その時代の新しい美や表現、成熟した空間などの軌跡に宿るものである。

(3)技術的価値
建造物には、構造・材料、構法・施工、環境・設備に関する技術が用いられている。技術の発展は、過去の技術の積み重ねと技術開発によって生じるものであり、それぞれの建造物で用いられた技術の総体によって今日の技術が存在している。したがって、それぞれの建造物が持つ技術的な特徴を評価することで、技術の変遷と発展における建造物の位置づけを図り、価値を把握することができる。例えば構造技術では、古くから発展してきた木造技術、近代以降における煉瓦造、石造技術、鉄骨造と鉄筋コンクリート造技術の導入、さらに、建造物の耐震・耐風、耐火、高層化、大スパン化に伴う技術、などである。

(4)景観・環境的価値
建造物には、その周囲の景観や居住環境との関係で見出される価値がある。建造物が周囲の景観に配慮し、良好な居住環境の形成に寄与している点を評価して得られる価値である。例えば、建造物が街並みと調和し、あるいは、ランドマークとしての役割を果たしていることなど地域の景観形成に寄与していること、日照など物理的な居住環境の確保やアメニティの創造に果たしていることなどである。そのような建造物が保存活用され続けていくことは、景観・環境にとって極めて重要である。

(5)社会的価値
建造物は、地域社会の活性化やコミュニティの成立にとって重要な社会資産である。すなわち、あらゆる建造物には公共性があり、生活の基盤施設としての価値をもつ。建造物の用途・機能が社会に与える影響や、社会に対して果たしている役割に着目して建造物を評価する。さらに、地域社会の変化や地域の近代化のなかで建造物が果たしてきた役割も同じ視点から評価される。加えて、このような価値を持つ建造物を保存活用し続けることは、地球環境問題の解決に対する重要な貢献となる。


建造物の保存活用にあたっては、先ず、その建造物の価値を明確にしなければならない。そのため、この保存活用ガイドラインの五つの基本的項目に照らして、その建造物の特徴を明確に把握し、評価することが必要である。そこで確認された特徴こそ、その建造物の固有の価値なのである。そのため、保存活用にあたっては、その価値を尊重し、新しい計画においてもその固有の価値を失わないように注意し、改修にあたってもその価値がより明快に維持され、社会に享受される計画性が求められることになる。

日本建築学会では、この保存活用ガイドラインに準じた建造物の評価、さらには、その保存活用計画の立案への助言など、専門家が積極的に協力したいと考えている。

*ここでいう建造物とは、その存続が危ぶまれる状況にある保存すべき建造物である。


社団法人 日本建築学会
〒108-8414 東京都港区芝5-26-20
03-3456-2051
http://www.aij.or.jp/aijhomej.htm

歴史的建造物保存活用ガイドライン
検討特別調査委員会

委員長
鈴木博之(東京大学大学院教授)

幹事
内田青蔵(埼玉大学教授)
小林正美(明治大学教授)

委員
兼松紘一郎(兼松設計)
佐々木睦朗(法政大学教授)
長尾 充(文化庁)
西澤泰彦(名古屋大学大学院助教授)
初田 亨(工学院大学教授)
藤岡洋保(東京工業大学大学院教授)
藤田香織(首都大学東京准教授)
藤森照信(東京大学大学院教授)
和田 章(東京工業大学大学院教授)

旧長崎刑務所の保存と活用を考える市民フォーラム

ファイル 1444-1.jpg

諫早にある旧長崎刑務所の、保存・活用を考えるイベントが開催されます。主催は「旧長崎刑務所の保存と活用を考える会」。連絡先は、長崎県建築士会諫早支部(地建設計内)の栄田元信氏 (TEL:0957-24-0416、E-mail:motonobu@festa.ocn.ne.jp)。

以下、九州産業考古学会のHPよりの転載です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

旧長崎刑務所の保存と活用を考える市民フォーラム
基調講演:高村雅彦准教授(法政大工学部)
パネルディスカッション:池田武邦氏(日本設計元社長)ほか
日時:平成19年8月31日(金)19:00~
会場:諫早市高城会館(長崎県諫早市高城町5-25)

これに併せて諫早図書館では8月28日~9月1日まで「山下啓次郎と旧長崎刑務所展」を開催しています。どうぞ足をお運びください。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シンポジウムの開催日が、月末で週末の平日(!!)という、勤め人には一番難しい日程ですが、何とか駆けつけることができないかと思案中です。

(社)日本建築学会の全国大会が、この日まで福岡大学で開催されていますので、その後に挙って諫早にお出でいただければ良いですね。博多から特急で1時間半程度の距離ですので。

「旧長崎刑務所」保存要望書

ファイル 1404-1.jpg

諫早の旧長崎刑務所ですが、とうとう「解体工事のお知らせ」が表示されたとのこと。

お水の花道ブログ
http://myhome.cururu.jp/shinnosuke0113/blog/article/41001341518

九州ヘリテージ
http://blog.kyushu-heritage.jp/?eid=488985

写真から読み取ると、施行者(解体業者)は株式会社中嶋組、発注者は株式会社ユニディオコーポレーションと株式会社新日本建設。

しかし、それぞれの業者さんに言ったところで、仕事を請け負っているだけでしょうから、その大元の発注者(すなわち入札落札者)を探して保存のお願いをするしかありません。いったい落札者は、どこの業者さんなのでしょう?? ちなみに、中嶋組は長崎市、ユニディオコーポレーションは福岡市、そして新日本建設は千葉市の会社です。

実は、居ても立っても居られずに、今月中旬に建築関係の諸団体に対し、下記の「旧長崎刑務所」保存要望書の要望をメールにて発信いたしました。半月ほど経過した現在までのところ、どの団体も何の動きも見受けられませんが……。緊急アピールでも、ホームページ上などに載せて欲しいものです。何とか、一部でも残して欲しい。旧長崎刑務所は、重要文化財級の物件ですから。

チアキさん、ゴン太さん、情報をありがとうございます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

社団法人日本建築学会九州支部 殿
社団法人長崎県建築士会 殿
社団法人長崎県建築士会長崎支部 殿
社団法人日本建築士会連合会 殿
社団法人日本建築家協会 殿
社団法人日本建築家協会九州支部 殿
社団法人日本建築家協会九州支部長崎会事務局 殿


日本建築学会「歴史的建築リスト整備活用小委員会」で委員をしております前村と申します。

さて、報道などでもご承知の通り、先月、長崎県諫早市の「旧長崎刑務所」が民間の不動産業者に売却され、解体間近となっております。

長崎刑務所の移転後、10年あまり空家のまま放置されたことで、廃墟のような状況ではありますが、山下啓次郎設計の「旧長崎刑務所」の価値は、決して減じるようなことはありません。

これまで世間では、「旧長崎刑務所」についての正当な価値評価が行なわれていないように見受けられます。ぜひとも貴会から保存要望書を出していただき、「旧長崎刑務所」の評価を示し、何らかの形で保存されるようご尽力くださいますようお願い申し上げます。

いつ解体が開始されても不思議ではない今、貴会としても早急に対処し、広く市民に向けて保存の呼びかけを行なうべきではないかと思われます。

微力ではありますが、小生もインターネット上で、ネットワークを通じて「旧長崎刑務所」の存在と価値を広報しております。世間に「旧長崎刑務所」の価値が認知されることが、まず第一と考えております。

来月、九州で建築学会の大会が開催されます。ぜひともこの「旧長崎刑務所」の保存が大きな話題となりますよう、何とぞご協力をお願い申し上げます。

なお、建築学会、建築士会、建築家協会等に対しても、保存要望書を出すよう働きかけを行なっております。

「まちは生きていく」の連載終了

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先月書きました朝日新聞連載「まちは生きていく」が、先週終了しました。全22回の連載でした。朝日新聞の編集委員である、松葉一清さんのコラムです。

前回、下関の回まで報告しましたが、その後紹介された記事は次の通りです。

・横浜市山手地区
・長崎県雲仙市
・北海道恵庭市
・大阪府千里ニュータウン
・千葉県佐倉市
・岡山県倉敷市

ここまでで19回でした。そしてこの後、特定の地域だけでなく、まちおこし、地域活性化の理論や実践を行なう人の話になります。

・そこにあるロハス(西郷真理子さん・地域再生プランナー)
・ヨコハマ事始め(田村明・法政大学名誉教授)
・旅の終わりに(小林重敬・横浜国立大大学院教授)

最終回は、大分県別府市でした。「わが国現存最古をうたう大正時代の『竹瓦小路アーケード』」の報告です。

各地の商店街で、アーケードが暗く壊れたままになっており、シャッターが閉ざされています。しかしその一方で、それぞれの工夫で地域を支え、踏ん張り、まちの再生に頑張っている人々のいることが、今回のコラムで数多く報告されました。アイデア次第で、まちが楽しくなっていくということを、小生も信じたいと思います。

石見銀山が世界遺産入り決定

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今日、島根県の石見銀山が、ユネスコの世界遺産に登録されることが決定しました。一時は登録延期という事態ともなりましたが、まさかの逆転決定です。

世界遺産となった石見銀山の地域には、銀の積出港として栄えた温泉津の町があります。ちなみに、「温泉津」と書いて「ゆのつ」と読みます。ここはその名の通り温泉が沸いており、古い温泉場の雰囲気を残す町並みが続いています。20年位前までは擬洋風の警察署の建物も残っていたのですが、残念ながら解体されてしまいました。しかし、まだ洋風の古い旧共同浴場が残っており、また、数年前に訪ねたときには、いくつかの下見板張りの建物も見つけました。

「世界初の世界遺産登録の温泉」をキャッチフレーズに、温泉津は世界遺産登録に向けて運動を展開していましたが、とうとう本当になりました。ただでさえ細い道路に、沢山の観光客が訪れることになることを思うと、今後が心配です。

まずは、日本で初の産業遺産としての世界遺産登録決定を祝いたいと思います。世界遺産の登録名は、「石見銀山遺跡とその文化的景観」とのことです。

【追記】
ジブリのアニメ映画「もののけ姫」に出てくる「タタラ場」は、この石見銀山の製錬場をモデルとしてイメージしたとも言われています。鉱山は宝を産みますが、必ず鉱毒という問題も生じます。

「まちは生きていく」が面白い

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今月より始まった、朝日新聞朝刊の連載記事「まちは生きていく」が面白いです。書いているのは、京大建築学科出身の編集委員、松葉一清さん。

全国各地の、まちおこしや地域活性化のために尽力された闘士・志士の方々の紹介です。エピソードを交えた写真入りの記事で、さまざまな興味深い実践例が示されています。

asahi.comに掲載されていないか探したのですが、どうも載せていないようです。後日、単行本にでもなるのでしょうか。

これまでに取り上げられた町は、
・高松市丸亀町
・山口県宇部市
・徳島市新町川
・京都市三条通り
・熊本県山鹿市
・新潟県村上市
・埼玉県川越市
・岐阜県飛騨市
・茨城県古河市
・長崎県島原市
・山口県下関市

今日の下関の記事は、下関市役所第一別館の保存の話でした。第一別館の写真が誇らしいです。

これまでの連載で「あッ!」と思ったのは、村上市のまちづくりの回。「会津若松の街並み保存運動家に『道路拡幅で成功した商店街はどこにもない』とさとされた」という話でした。そうなのですよね。道路の拡幅工事を行なった町は、どこもよそよそしい新興・復興の町のようになってしまうのです。さまざまな建物がゴチャゴチャしている町こそが、魅力的な独自性のある町なのに。

川越の回で、お上に頼らないまちおこしの話も、共感しました。「好きなことなので自腹が原則」、「政治に手をだすな、お上に頼らない気概を持て、と教えられて育った」という、代表の方のお話。「気概」を持たなければなりませんネ。

以降、どの町の話が出てくるか、楽しみです。

不動産を所有するということ

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旧長崎刑務所が今どうなっているのか、その後の情報が出てこない!! まだ、手がかけられていないことを祈っています。長崎新聞さん、旧長崎刑務所は今、どうなっていますか?

旧長崎刑務所は、すでに民間の不動産会社に売却されてしまっているということですので、あとはその業者さんの意向次第ということかも知れませんが、まだ諦めてはいけません。

旧長崎刑務所を購入したのは、東京の不動産会社だという話も聞こえてきます。ぜひ業者さんには、諫早のこの現地を見てほしいと思います。遠く離れた土地での机上の計画だけではなく、実際の現地を見、歩き、感じてほしい。そうすれば、きっとこの旧長崎刑務所の価値や意義を実感するに違いありません。そうすれば、この建物や空間を活かした計画をせざるを得なくなるはずです。業者さんには、この旧長崎刑務所という素材に対して、どのような活かし方をするかの手腕が問われることでしょう。

不動産を所有するということは、自身の財産として何でも自由にできる、ということでは決してありません。さまざまな法規制もありますが、それをクリアさえすれば良いというだけでもありません。

不動産を所有するということは、時間軸と空間軸という両座標軸上での責任を負うということを理解しなければなりません。時間軸とは、過去から未来へという、歴史的価値を伝えること。空間軸とは、近隣や地域の中でのその物件の意味、さらに、もっと広く地球規模の空間の中での意味までをも考えなければなりません。これは、この旧長崎刑務所のような歴史的建造物だけでなく、どんな小さな住宅でも、マンションでも同じです。不動産を所有するということは、そういった重い責任を負うことなのだということを、誰もが理解し、意識する必要があります。

旧長崎刑務所は、重要文化財級の非常に価値の高い建物ですが、たとえ文化財に指定されていなくても、価値があるということに揺らぎはありません。ものの価値はレッテルではなく、そのもの自体に価値があるのです。

なお、旧長崎刑務所のことを載せているブログの多くには、価値は認めるが、ここまで老朽化してしまっては解体も止むを得ないという記述が少なくありません。しかしながら、たとえどれほど老朽化しても、解体の理由にはなり得ないのです。全国の残る文化財指定の近代建築の多くは、どれも老朽化し、一時は廃墟のようになっていたのです。人々がその価値を見出し、保存をするという意志さえあれば、保存できるのです。要は、その物件の価値を見出すかどうかに掛かっています。

また、旧長崎刑務所を保存するには数十億円もかかるのでは、解体も止むを得ないという記述も見られます。不思議と、なぜか他の建物でも解体する理由として、保存するには数億、数十億円かかるという金額が示されます。こんなにかかるのでは止むを得ない、という口実を与えるための金額なのではないかとさえ疑われます。建物全体を一気に修復・保存するとすれば、それなりの金額がかかるでしょうが、予算が無ければ無いなりの修復・保存の方法があるはずなのです。要は、その物件を残したいという意志次第なのです。お金が無いから残せなかったとは、何とも恥ずかしい話ではありませんか。

旧長崎刑務所を取得された東京の不動産屋さん。この旧長崎刑務所が、後世に誇るべき良い形で残されることを期待しています。